不貞行為は離婚の主役
離婚原因では性格の不一致がいちばん多いように考えられていますが、離婚が裁判にまでなるケースではやはり夫の浮気、妻の浮気が圧倒的に大多数です。民法には浮気という言葉はなく、「不貞行為」という表現をとっています。不貞行為とは何か
法律で言う不貞行為とは、「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて配偶者以外の異性と性的関係をもつこと」です。
夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければならない義務を負っています。この同居・協力・扶助義務の中には、夫、妻とも互いに貞操を守る義務が含まれています。この義務に反して一方が不貞行為を行ったという場合には、他方は配偶者の不貞行為を理由に離婚の請求をすることができます。
裁判での不貞行為では、「婚姻関係を破綻させたかどうか」が焦点となります。
婚姻生活が破綻した後に性的関係が生じた場合
夫婦関係がすでに破綻したことと、その後の性的な関係との間には因果関係はなく、不貞にあるようにはみえても不貞にはなりません。
破綻状態にある夫婦の一方が配偶者以外の者と性的関係をもった場合に、必ずしも不貞行為にはならないとした判例があります。
「浮気相手が夫と肉体関係を持つことが妻に対する不法行為となるのは、それが妻の婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に対する利益を侵害する行為ということができるからだ。したがって夫婦の婚姻関係がすでに破綻していた場合には、原則として、妻にこのような権利または法的保護に値する利益があるとはいえないので不法行為にならない」(最判平成8.3.26)
別居後に性的関係が生じた場合
別居後(夫婦の関係が破綻した後)に生じた婚姻外関係は、破綻の原因ではありませんから不貞とはいえません。
同居中に婚姻外の関係が生じたような場合でも、すでに家庭内別居の状態であったことを客観的に証明できる場合には、破綻後の関係とされることもあります。
性関係を伴わない関係は不貞とみなされない
肉体関係を伴わないプラトニックな関係やデートするだけの関係は不貞行為とはみなされません。
肉体関係があることだけが離婚理由ではありません。肉体関係がなくてもそれが原因で夫婦仲が破綻すれば「婚姻を継続し難い重大な事由」になります。
生活苦やローン返済のための不貞行為
生活苦やローン返済のための不貞行為は生活の為の唯一の手段とは言えません。いくら生きていくためとはいえ、不貞には違いありません。
ただ、不貞を理由とする夫からの離婚請求を地方裁判所は認めませんでしたが、最高裁は生活が苦しいからといって不貞をしていいとは言えないとして夫からの離婚を認めています。
夫が浮気したので私も浮気した
これはどちらの側からみても不貞行為があります。
不貞を原因とする離婚の場合には、不貞をした側は有責配偶者として慰謝料を支払わなければなりません。この場合は、双方の有責性が比較考慮されて主たる有責配偶者を決めることになります。
1回限りの浮気は不貞
1回限りの浮気で離婚を認めた判例はありません。1度だけの不貞なら許されるということではありません。裁判での原因として認められる不貞行為とは、ある程度継続的で肉体関係を伴う男女関係を指すと考えられます。
離婚原因としての「不貞」は、その為に「婚姻関係を破綻させたかどうか」が重視されます。
家庭や配偶者を大切にする気持ちの方が大きく、十分反省しているといった場合には、「婚姻関係を破綻させた」とはみなされません。
1回限りの浮気をきっかけとして夫婦関係がうまくいかなくなったという場合には、「不貞」というよりは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるかどうかの問題として考えることになります。
同性愛の場合
不貞行為にはなりませんが、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたります。
強姦の場合
夫が他の女性を強姦した場合、妻に対する不貞行為になります。
妻が暴漢に襲われて強姦された場合、自由な意思によるものではありませんので、不貞行為にはなりません。
浮気を一度許した時
不貞をいったん許したら離婚請求ができなくなる事はありません。いったん許したもののやはり夫婦の溝は埋まらず離婚の訴えを起こした時は、訴訟は成立します。
不貞行為があっても婚姻の継続を相当とする場合があるか
- 不貞によって婚姻関係が破綻したといえず、復元の可能性がある場合。
- 離婚請求する側に、より大きな婚姻破綻の責任がある場合。
- 離婚を認める事が夫婦双方の利益のために、または未成年の子の利益のために好ましくないとみられる場合。この様な事例は少ない。
不貞が原因の時は証拠が必要(不貞を証明するにはどうしたらよいか)
浮気が原因で裁判離婚したい時は、証拠をとっておくことが必要です。不貞の事実があることを証明しなければならないからです。証拠が不十分でも、離婚は認められることはありますが、慰謝料や財産分与も有利に進めたいというときには、はっきりした証拠があったほうが有利です。判例が認める不貞行為の意味は狭く、性交渉を持つことに限定しています。
裁判の時だけでなく調停や協議離婚でも不貞の証拠をとっておくと、慰謝料請求の際に有利になります。
不貞が認められるか否かは、証拠次第です。裁判で不貞があると認められるためには、ある程度はっきりとした証拠が必要です。浮気をしている場合には、愛人からの贈り物や、写真などを持っていることが多いのではないでしょうか。そのような証拠になるようなものを見つけたら、とりあえずコピーをしておきましょう。
- 二人でホテルの一室に宿泊した証拠があるとき
- 手紙などから性関係があることが読み取れる場合
- 写真から二人で旅行したことがわかる場合
などの場合に不貞が認められています。
夫と女性との肉体関係を示す証拠はないが、2人の交際状況からみて妻が夫に不信感を抱くのは無理もないということで、離婚を認めたケースがあります。
不貞の証明ができなくても、夫婦としての信頼が維持できないような貞節ではない行為があれば、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとして、離婚が認められることがあります。
夫の側に不貞があるが妻にも破綻の原因がある場合
双方に「同じ程度に」責任のある場合には、離婚が認められます。不貞がある場合、他方の配偶者は、不貞のある側に責任があると主張しがちです。しかし、不貞もやむを得ないと誰もが考えるような行動が、不貞以前に、他方の配偶者にあるようなケースは少なくありません。夫に不貞行為がある場合でも、妻にも破綻についての責任があり、どちらが悪いともいえないような場合には、離婚が認められます。
愛人ができた夫に別れたいと言われたが別れなければいけないのか
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められていません。
自分が不貞を犯し、それによって婚姻関係を破綻させた配偶者(有責配偶者)でも、他方の配偶者に離婚の協議を申し込み、あるいは家庭裁判所に離婚調停を申し立て、合意ができれば離婚することができます。
しかし、他方の配偶者が、離婚に応じない場合には、協議離婚ないし調停離婚はできないのであくまで離婚を求めるには地方裁判所へ離婚訴訟を起こすことになります。
裁判上、離婚が認められる理由は法定化されていますが、結婚生活を維持しがたいほど夫婦関係が破綻しているような場合には、離婚を認めています。
最近まで最高裁は、一貫して有責配偶者の離婚請求をみとめない態度をとってきました。
しかし、近年、夫婦関係における破綻の事実を直視する立場から、一定の条件のもとで有責配偶者からの離婚請求をみとめようとする論議が活発になりました。
地裁、高裁の裁判例の中には、別居が20年、30年にも及び、事実上は離婚状態で、戸籍上でのみ夫婦として残っている場合に、有責配偶者からの離婚請求を認めるものが出てきました。
そして、最高裁も夫婦の婚姻関係が、共同生活の実体を失い回復の見込みがなくなった場合に、
「別居が相当の期間になり」「未成熟の子供がなく」「離婚になっても相手方が精神的経済的に苛酷な状態に置かれない」など、離婚を容認することが著しく社会正義に反するような特別な事情がなければ、有責配偶者からの離婚請求を認めてもよいと判断しました(昭和62年9月2日判決)
■ その他に、どんな場合に離婚はできるのか?
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