今、子どもがいる夫婦が離婚するとき、特に母親が親権を持つ場合にもっとも気になるのが「子どもの養育費」でしょう。
ですが、いざ子どもの養育費を請求しようと思っても、養育費の詳細についてよく知らないという人が大半なのではないでしょうか?
- 養育費ってそもそも何?
- 養育費の相場はどれくらい?
- 養育費の額はどうやって決めるの?
そんな養育費に関する疑問についてお答えしていきます!
また、養育費は継続的に支払われるために、再婚といった環境の変化や支払いが滞るなどのトラブルも起こりえます。
そんなときに養育費はどうなるのか、どうすればいいのかも、ケース別にご紹介していきます。
しっかり養育費のポイントを押さえて、離婚時の不安や疑問を解消していきましょう。
養育費って何?
養育費とは?
養育費とは、子どもを育てるのに必要な費用のことです。
子どもが社会的・経済的に自立するまでの間にかかる衣食住の経費はもちろん、学費や塾通いのための教育費、医療費、適度な娯楽費や小遣いなども含まれます。
「習い事や小遣いまで面倒見る必要はない!」と支払いの減額を主張する親もいますが、この主張は通りません。
養育費は、子どもの必要最低限の生活の保障ではなく、親と同等の水準の生活を保障するためのお金であるゆえです(生活保持義務)。
支払い義務は親権の有無に関係なし!
養育費は親権の有無に関係なく、父母の資力に応じて分担します。
たとえ親権がなく、一緒に暮していない親であっても、扶養義務として養育費は支払わなければなりません。
養育費の相場は? いつまでもらえる?
養育費の相場は?
養育費の額は、主にう夫婦の年収と子どもの人数・年齢によって計算されます。
なので、年収や子どもの条件によって、養育費の額は大きく異なります。
一般的な相場
年収300万円・子ども1〜2人 |
2〜4万円 |
年収400万円・子ども1〜2人 |
4〜6万円 |
年収が上がればあがるほど養育費は高くなります。
また、自営と会社員であれば、自営の方が額が上がります。
子どもの年齢も算定を左右します。
子どもの年齢が上がるほど生活に必要なお金も多くなると考えられ、「0〜14歳」より「15〜18歳」の子どもの方が2万円程度プラスされるのが一般的です。
養育費の算定方法は大きく2種類!
養育費の算定には、「養育費算定表」が使われます。
この算定表には2種類あります。
「裁判所が作成したもの」と「日本弁護士連合会(日弁連)が作成したもの」です。
2つの算定表の違い
裁判所作成 |
古くから全国の家庭裁判所で使用。年収や子どもの人数・年齢から計算 |
日弁連作成 |
近年できたもの。年収や子どもの諸条件に加えて、子どもの生活費が高く設定してある。裁判所作成のものよりも養育費が高く算出される |
「日弁連の算定表を使う方が多くもらえて得だ!」と考えるのは当然でしょう。
ですが、残念ながら日弁連作成の算定表が使われることはあまりありません。特に調停や裁判の場では、裁判所の算定表が参考にされます。
相手の同意があれば、日弁連作成の算定表で養育費を算定することも可能です。
【関連ページ】養育費の算定方法
養育費はいつまでもらえるの?
養育費の支払いは、子どもが社会人として経済的に自立するまでとされており、「20歳まで」が目安です。
ですが、それは原則であり、子どもの立場や状況によって異なります。
20歳までに支払いが終わるケース |
子どもが就職して経済的に自立するなど |
20歳以降も支払いが続くケース |
夫婦合意の上で子どもが大学に進学した場合など※ |
※合意がなく裁判になるような場合には、「原則20歳まで」の審判が下ることが多いです。しかし、養育費を支払う親の最終学歴が大卒であった場合、「同水準の生活を保障する」という養育費の基本的な考え方から、大学卒業までの支払いが認められることもあります。
養育費は「月払い」と「一括払い」どっちがいい?
例えば子どもの年齢が高く、養育費支払い期間が短い場合など、一括支払いが可能なケースもあるでしょう。
「未払いを避けるために一括で払ってほしい」という人も多いでしょう。ですが一括払いにも一長一短があります。
▼一括払いのメリット
-
養育費の未払い、滞納の心配がない
-
今後連絡する必要がなく、相手と縁が切れる
▼一括払いのデメリット
-
まとまった額の養育費は贈与税の対象になる(月払いでは非課税)
-
一括だと中間利息が控除され、受け取れる額が少なくなる
養育費の話し合いでは「離婚協議書」「公正証書」の作成を
離婚の話し合いの際に、養育費の支払い額や期間、支払い方法などについて取り決めることになります。
その際、必ず残しておきたいのが「離婚協議書」もしくは「公正証書※」です。
話し合っただけでは「覚えがない」などと約束を反故にされることも少なくないため、きちんと合意内容を文書に残しておきましょう。
※「公正証書」は公的機関が作成するため法的な執行力があり、未払いのときに差し押さえなどが可能です。
【関連ページ】離婚協議書
【関連ページ】公正証書の作り方
こんな場合はどうする? ケース別養育費のあれこれ
1.養育費の増額・減額はできる?
養育費の変更は父母間の合意があれば可能です。
もし合意できないときは、家庭裁判所に請求の調停を申し立てることになります。
▼増額が考慮される事情
- 入学、進学に伴う費用の必要性
- 病気や怪我による治療費の必要性
- 受け取る側の病気や怪我
- 受け取る側の転職や失業による収入の低下
- 物価水準の大幅な上昇
▼減額が考慮される事情
- 支払う側の病気
- 支払う側の転職、失業による収入の低下
- 受け取る側の収入増
2.再婚したら養育費はもらえなくなるの?
受け取る側が再婚したというだけでは、養育費の支払いを中止する理由にはなりません。
子どもの生活保持義務を負うのは再婚相手ではないからです。
ただし、再婚相手が子どもを養子縁組した場合、養親にも法的に子どもの生活を扶養する義務が生じるため、支払う側が養育費の減額や免除を求めて裁判を起こせば、それが認められる可能性はあります。
3.養育費を請求しないと言ってしまったけど、後から請求できる?
早く離婚したい一心で「離婚してくれれば養育費は請求しません」と約束してしまうようなことは多々あります。
離婚協議書や公正証書にその旨を記載してしまったものの、後々生活に困って、「やっぱり養育費がほしい」ということもあるでしょう。
原則的に、「養育費を支払わない」と夫婦間で交わされた契約は法律上有効なので、覆すことは難しいです。
ですが、親には子どもに親と同水準の生活を与える「生活保持義務」があります。
よって、養育費の支払いがないことで子どもが生活を脅かされるような場合、子ども自身から親に対して扶養料を請求することが可能です。※
ただし、請求できるのは将来的にかかる養育費であって、過去の養育費の分担を請求するのは難しいでしょう。
宇都宮家庭裁判所の審判では、「離婚時の合意を最優先とする。ただし、その合意の内容が著しく子どもに不利益をもたらすものであったり、離婚後に事情が変わって、その合意の内容を維持することができなくなった場合には、子どもからの請求も認める」と判決が出されました(昭和50.8.29)。
4.別居中だけれど養育費は請求できるの?
別居中であっても、子どもの養育費を含めた生活費全般(婚姻費用)の支払いを求めることができます。
たとえ別居中であっても婚姻関係が継続しているため、夫婦双方に婚姻生活を支える費用を分担する義務があります(これを「婚姻費用の分担」といいます)。
婚姻費用の額は夫婦で話し合って決めますが、決まらなければ家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
婚姻費用は離婚成立まで受け取ることができます。離婚後は子どもの養育費のみとなり、生活費は含まれません。
ただし、申し立てる方が不貞など別居の原因を作った場合、子どもの養育費を除いて婚姻費用の支払いは認められないことが大半です。
5.養育費が未払い!過去の分も支払ってもらえる?
養育費の支払いを取り決めていても、支払いが遅れたり止まって未払いになってしまうことがあります。未払い分の養育費の請求は、できる場合と難しい場合とがあります。
離婚時に「離婚協議書」や「公正証書」で取り決めをしていた場合は、未払い分の請求が可能です。契約書をもとに話し合い、応じない際は裁判所に支払い請求を行います。
問題は離婚時に書面を残していなかった場合です。まずは父母間で話し合い、まとまらないときには家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立てることになりますが、申し立てた日より以前にさかのぼって請求することは認められないことが大半です。
未払い分の支払い請求には時効がある!
ただし、未払い分の請求には時効があるので注意です。
夫婦間で協議して養育費を取り決めた場合※、養育費の支払いが発生したときから5年で支払い義務が消滅します。つまり、令和3年6月から養育費の支払いが発生したものの未払いだった場合、令和8年6月を過ぎると令和3年6月分の養育費は請求できない、というわけです。
これに対し、調停や審判、裁判などの手続きで養育費を取り決めた場合は、時効期間は10年になります。
※協議の際に公的機関を通した「公正証書」を作成していたとしても、時効の効力は通常の協議書と同じ5年です(民法169条)。
時効を中断させるには?
養育費請求には時効がありますが、時効を中断させることもできます。
債務承認 |
支払い義務者が「支払います」と契約書や書面を出すことで時効は中断します。 |
裁判上の請求 |
養育費の取り決めを離婚協議書や公正証書で作成しているとき、裁判所に申し立てることで中断します。 |
仮差押・差押 |
裁判決定や公正証書を作成している場合、相手の給料などを差し押さえると時効が中断します。 |
また、時効直前になって気づき、裁判の手続きが間に合わないようなときは、内容証明郵便で支払い請求を送ることで、半年間養育費の時効を遅らせることができます。
6.養育費の支払いが滞ったら何をすればいい?
養育費の支払いが滞ったら、まずは相手方に対し内容証明郵便を送って支払いを促します。
それでも相手が応じない場合は、養育費をどのように取り決めていたかで対応が変わります。
【関連ページ】内容証明の基礎知識
【関連ページ】内容証明/子どもの養育費を請求
「離婚協議書」しかない場合
離婚協議書には、未払いが発生した際に相手の給与等を差し押さえる法的効力がありません。
なので、協議書に法的効力(債務名義)をつける準備をします。
相手が話し合いに応じないときは、民事調停を申し立てます。
ここで成立した書面は「公正証書」同様法債務名義を持つので、給与差押も可能になります。
また、相手がとにかく逃げ回っているような場合には、支払督促を検討します。債権債務が確認できる書面があれば、訴訟なしで迅速に債務名義を得ることができます。
「公正証書」がある場合
公正証書があれば、法的に相手方の給与や財産を差し押さえる「強制執行」を行うことができます。
ただし、強制執行にあたって必要な書類や手続きが多く、個人で申し立てることは困難です。専門家に頼むと数万円の費用が必要となるため、未払い金がある程度たまってから執行手続きを行う方がいいでしょう。
調停や審判、裁判で養育費を取り決めた場合
調停など第三者の介入で養育費の取り決めをした場合には、3つのステップがあります。
履行勧告 |
調停をした家庭裁判所に頼んで「支払なさい」と直接いってもらう制度。費用は無料 |
履行命令 |
勧告で応じない場合、義務を遂行するようより強く命令を下す制度。従わないと過料に処せられる |
強制執行 |
相手方の財産を差し押さえる制度。前項「公正証書」を参照 |
【関連ページ】
寄託・履行勧告・履行命令
7.相手の給料を差し押さえたいけど転職して会社がわからない。差し押さえられる?
可能です。
2020年4月から新しい民事執行法が施工され、強制執行に必要な債務名義を有していれば、相手に財産開示手続きを申し立てることができるようになりました。
相手が財産開示請求を無視した場合、刑事罰(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が課されます。
また、債務名義があれば、裁判所に申し立てることで財産に関する情報を第三者(金融機関など)から提供してもらうことができます。ただし第三者からの提供は、財産開示請求を利用してからでないと使えません。
8.養育費に税金ってかかるの?
養育費として取得したお金は、原則非課税です。
ただし、養育費を一括してもらうような場合には額が大きくなるため、贈与税の対象になることがあります。
おわりに
いかがだったでしょうか?
一概に「養育費を決める」といっても、算定方法や決め方、支払い方などで額が変わってくることを知っていただけたかと思います。
養育費は子どもを育てる上では欠かせないお金です。
知識を知っているかどうかで、もらえるはずのお金がもらえなかったり、額が少なくなったりということもありえます。
すべてを網羅することはなかなか難しいですが、なんとなく頭の片隅に置いておいていただければと思います。
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